ここ2週間ほどiTunes Storeのクラシックジャンルで大騒ぎになっていた格安クラシックアルバムですが、祭りは完全に終わりということで、すべてiTunes Storeから消えてしまったようです。
せっかくなので、ちょっとまとめておきましょう。
話題になっていたアルバムはすべてDeutsche Grammophonのもので、Collectors Editionのシリーズの一部、およびOriginal Mastersシリーズの一部です。今年の1月に話題になった格安アルバムもほとんどがDeutche Grammophonのものでした。1回だけならiTunes Storeのミスとも考えられますが、2度目ですから、おそらくミスなどではなく、音源の卸元であるDeutsche Grammophonが意図的に行った企画であろうと考えられます。
そう考えますと、今回の件、いくつか特徴的なことが見られます。まず、おそらく日本だけの企画であるということです。すべての国のiTunes Storeを見たわけではないのですが、少なくともアメリカとドイツではこのような安売り企画は行われておらず、常識的な価格で販売されていました。例えば、ピノックのモーツァルト交響曲全集だと、アメリカのiTunes Storeでは約70ドル、ドイツでは約90ユーロとなっていました。この値段の付け方からして、たぶん期間限定などではなく、ずっとこの価格で売られ続けているのだと思われます。
次に、DRM付きでの販売であるということです。Deutsche Grammophonは、iTunes Storeでは安く販売する代わりにDRMを付ける、自社サイトではそれなりの値段を付ける代わりにDRMなしで販売する、という差別化戦略をとっています。上に述べたピノックの交響曲全集だと、自社サイトではDRMなし、320kbpsのMP3で約100ユーロで販売されています。DRMが付いているということは、iTunes Storeがなくなってしまった場合は楽曲の再生そのものができなくなる可能性が高いわけですが、Deutsche Grammophonはそれでも売れると判断したのでしょう。ちなみに、海外、特にアメリカではDRMなしに対する消費者の要求が強く、Sony BMG, Warner Music, Universal Music, EMIの4大グループも何らかの形でDRMなしの楽曲を販売しています(参考記事)。一方、日本ではそこまで状況は進んでおらず、メジャーレーベルでDRMなし販売に踏み切っているのは東芝EMIEMI Music Japanくらいです。こういった日本の状況は、当然Deutsche Grammophonの判断に影響を及ぼしていると考えられます。
最後に、今回の件について、iTunes Storeでは宣伝がいっさい行われていないということです。通常iTunes Storeでは、注目アルバムは大きくロゴが表示されたり、特集ページが作られたりして、宣伝がかなり行われます。それがいっさい行われていません。したがって、今回のアルバムは、ブログや2ちゃんねるなどを通したクチコミ、iTunes Storeでの売れ行きランキングなどによってのみ評判が広がり、売れ行きが拡大したと思われます。
以上を考え合わせると、Deutsche Grammophonはかなり周到にマーケット調査を行っていたように思われます。日本市場でのクラシック音楽の潜在的な需要、全集ものを購入する購買層の存在、DRMに対する拒否感の少なさ(もしくは、DRMという技術の知名度の低さ)、クチコミの影響力、前回の販売結果、などなどを踏まえ、今回の期間限定販売に至ったのでしょう。クラシック界でのメジャーレーベルだからこそできた企画なんだろうなあ…と思います。
2008/06/19追記:コメントで「東芝EMIはもうない」というご指摘をいただきました。その通りで、現在はEMI Music Japanとなっています。これを踏まえ、本文を一部訂正しました。


2 コメント:
ひとつ突っ込むなら、現在東芝EMIという会社はありません。念のため。
あ、そうか。EMI Music Japanになったんでしたね。ご指摘ありがとうございます。どうも昔のイメージが抜けなくて…
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